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教えて!ドクター

さかしたクリニック 西田 主恵 先生

プロフィール

さかしたクリニック 院長

日本外科学会認定専門医
日本東洋医学学会専門医
日本東洋医学学会会員

外用薬で効果が無い場合や、使用が難しい場合は内服薬

痔については、基本的には外用薬を処方する方が多いのですが、外用薬だけでは治療が難しい症状の患者さんには内服薬を併用しています。また坐剤などの外用薬は、おしりに薬を入れるので、それに抵抗がある方、もしくは入れるのが困難な方もおられます。例えば、恥ずかしいと感じる若い人もおられますし、ご高齢の方など自分で坐剤を入れられない方も少なくありません。外用薬を処方しても、その患者さんが指示通りに薬を使うことが困難だと判断した場合は、内服薬だけを処方するケースがあります。このように、内服薬を処方するかどうかはその患者さんの症状や日常生活の様子を考慮し、患者さんと相談しながら決めています。

西洋薬から順に試し、効果が見られない場合に漢方薬を使用

痔の治療でも内服薬が使われていること自体、まだまだ知られておらず、漢方薬が使えることについては、ほとんど認知されていない印象です。そのため当院では、基本的には外用薬、西洋薬から処方し、いろいろ試しても効果が見られない場合に、漢方薬を処方しています。漢方薬には一般的に、ゆっくり効くイメージがあるので、今すぐ痛みをとりたい即効性を求める患者さんにとっては、あまり受け入れられないからです。これまで使われてきたことが多い西洋薬から使い、それでだめなら漢方薬を処方する流れであれば、患者さんもすんなり受け入れることができます。ただ場合によっては、最初から漢方薬を処方したほうが良いこともありますので、その際は患者さんと相談しながら使用します。

最も使用する漢方薬は当帰建中湯。他にも桂枝茯苓丸や桃核承気湯を使う場合も

当院で、痔の治療に一番使用している漢方薬が当帰建中湯です。なかでも多い症状はきれ痔です。きれ痔がひどくなって筋肉が攣縮(れんしゅく/筋肉が意図せずに縮むけいれん性の収縮)し、肛門がすごく狭くなっている患者さんなどに処方します。

排便の際は肛門を開かなければなりませんが、筋肉が硬くなり肛門が狭くなった人は、肛門を開くことができず圧力がかかって痛みを感じます。そして痛いからまた攣縮するという悪循環を繰り返します。その流れを断ち切るために、当帰建中湯でおしりの筋肉を和らげ、便をスムーズに出せるように改善します。便通コントロールとの併用は必要ですが、これまでこの症状で当帰建中湯を使った患者さんは、皆さん改善されています。

他に処方する漢方薬としては、「瘀血(おけつ/血液の流れが滞って、巡りが悪くなった状態)」を改善する桂枝茯苓丸や、強い便秘を改善する桃核承気湯などです。

一つの漢方薬で、複数の効果を得られるところが漢方薬のメリット

西洋薬であれば、痔なら痔の薬、血圧なら血圧の薬というように一つの症状にのみ有効ですが、漢方薬は一つの薬で複数の症状に改善が見られることがよくあります。

例えば女性の場合、冷えやのぼせ、目まいといった、瘀血(おけつ)の症状を持つ方がおられますが、この状態の女性に、痔の治療のために桂枝茯苓丸を処方すると、痔はもとより他の瘀血の症状も改善されることがあります。

また以前、男性のきれ痔の患者さんで、肛門がすごく狭くなり、診察するのもやっとの方がおられました。便秘薬や痔の薬、外用薬、内服薬、何を試しても効果が無く、最後に当帰建中湯を使ったのですが、おしりの方が良くなったのはもちろん、持病だった腰痛も良くなりました。当帰建中湯には「活血作用/血液の流れを改善すること」があるので、血の循環が良くなり、体が温まったことが腰痛改善にもつながったと思います。こうした複数の効果が見られるところが、漢方薬の一番のメリットです。

排便後、数時間痛みが続くようなら当帰建中湯を

きれ痔の場合でいうと、初期は排便中や排便後に少し痛むぐらいで、痛みはそれほど長引かないと思います。この頃は注入軟膏などで痛みが取れるので、外用薬の使用で良くなる方も多いと思います。ただこれで改善されない場合、痛みの続く時間がどんどん長くなってきます。これは筋肉の攣縮が始まっていると考えられますので、排便後も数時間痛みが続くようなら、当帰建中湯を試してみても良いと思います。

一方で、いぼ痔の患者さんに漢方薬を処方するケースはあまりありませんが、内痔核の場合で脱出のひどい方などは、脱出が戻りやすくなったり、頻度が減ったりする可能性は考えられます。

漢方薬はその人の体の状態によって使い分ける必要がありますが、当帰建中湯は一番低い「体力虚弱」の方でも使用できますので、試しやすいと思います。

漢方薬は、増やせばマイルドになり効き目が落ちる

漢方薬でも副作用はあるので、服用する場合は、初回は基本1日3回を2週間。その後はその人のおしりの状態に合わせて、服用期間を決めています。少し良くなるとすぐに服用をやめ、再度悪化するケースもあるので、自分で判断できない場合は、医師に相談してください。

また漢方薬の場合、安易に飲む薬の種類を増やすのも良くありません。漢方薬は、生薬の数が増えれば増えるほど、効き目が弱くなることがあります。これは、生薬と同じく植物が原料であるスパイスと一緒です。スパイスは数が増えれば増えるほどマイルドな味になりますが、漢方薬も、たくさん服用すればするほどマイルドになり効き目が弱くなることがあります。漢方薬は、増やせば良いというものではないことは、覚えておいてください。

 

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