医療法人LEADING GIRLS 女性医療クリニックLUNAグループ
理事長
関口 由紀 先生

プロフィール
医療法人LEADING GIRLS 女性医療クリニックLUNAグループ 理事長
2005年に横浜元町女性医療クリニック・LUNAを開設。
日本泌尿器科学会専門医・指導医
日本排尿機能学会専門医
日本性機能学会専門医
日本東洋医学会専門医・指導医
経営学修士(MBA)
医学博士
横浜市立大学大学院医学部泌尿器病態学講座 客員教授
日本フェムテック協会代表理事
日本女性財団 理事
女性のためのインターネットサイト フェムゾーンラボ社長
医療法人LEADING GIRLS 女性医療クリニックLUNAグループ(横浜)
〒231-0861
神奈川県横浜市中区元町1丁目32
女性特有の悩みに応える、フェムケアとフェムゾーンケア
フェムケアには広義と狭義の二つの意味があります。広義には心と身体をすべて含む女性特有の健康課題のケア、狭義には腟と外陰部、いわゆるフェムゾーンに特化したケアを指します。
女性の腟や外陰部は、もともとマスコミを中心にデリケートゾーンという言葉が使われていましたが、それに対してフェムゾーンという言葉を提唱したのが私です。「デリケート」という言葉には触れてはいけないようなイメージがあり、女性がご自身でケアをする際には、マイナスに捉えかねないと考えたからです。
特にご高齢の女性は、昔の教育のせいかフェムゾーンを触れてはいけない場所と考える方も多く、ケアをしないことで体調に支障をきたすケースも見られます。女性ホルモンの変化に由来する女性特有の悩みは、フェムゾーンのケアを積極的に行っていただくことで、かなりの改善が期待できます。
年齢によって変化するフェムゾーンのトラブル
フェムゾーンのトラブルで来院される女性は、50歳以降と50歳未満で傾向が変わります。50歳以降は、女性ホルモンの低下によるトラブルであるGSM(閉経関連尿路性器症候群)での来院が多くなります。最も多いのが陰部のかゆみ、痛み、乾燥といった皮膚症状で、日本の場合は次に、再発性膀胱炎、頻尿、尿漏れなどの尿路系のトラブル、三番目に性交の際の痛みや出血といった性交系のトラブルが上げられます。ちなみに諸外国では、二番と三番でトラブルの多さが逆転します。またGSMとは原因が違う骨盤底障害による疾患(過活動膀胱、腹圧性尿失禁、骨盤臓器脱等)も増加してきます。一方で50歳未満でのトラブルとしては、細菌性膀胱炎や性感染症が最も多くなります。
数は少ないですが、比較的難治性の間質性膀胱炎/膀胱痛症候群も、50歳未満の発症が多い傾向にあります。
GSMの原因は、性ホルモンの減少で起こる萎縮性腟炎です。以前は厚みのあった腟の皮膚や粘膜が薄く弱くなって乾燥し、細菌に対する抵抗力が弱まります。顔の皮膚も年齢とともに薄くなり、乾燥しますが、それと同じことが腟や外陰部にも起こるのです。
また骨盤底障害の原因は、加齢によっておこる骨盤底筋の筋力の低下や筋膜・靭帯のぜい弱化です。恥骨から尾骶骨の間には骨盤底というプレートがあり、内臓を支えるとともに排泄機能を司っています。骨盤底筋群は、骨盤底の重要な構成成分ですが、加齢に伴いこの筋力が衰え、トラブルを引き起こします。40歳以降、筋肉量は運動をしないと減っていきますので、トレーニングなどで骨盤底筋群を意識的に動かすことを心がけてください。
フェムゾーンケアには、保湿と運動が重要
具体的なフェムゾーンのケアは保湿と運動です。女性は、顔を洗えばほとんどの方が化粧水や乳液をつけ、体にもクリームを塗りますが、フェムゾーンだけは多くの人が何もしません。フェムゾーンは第二の顔。お風呂から出たら、下着を着る前に、顔の保湿と同様、フェムゾーンの保湿も行ってください。一方で、洗いすぎにも注意が必要です。清潔にすることは大切ですが、過度な洗浄はせず「優しく洗ってしっかり保湿」を心がけてください。
ケアに使う製品については、洗浄剤は弱酸性でソフトな洗浄力のものを選んでください。保湿剤に関しては、皮膚の弱くない方なら全身用の保湿剤を転用しても良いでしょう。一方皮膚の弱い方や全身用の保湿剤では乾燥感が取れない方は、フェムゾーン専用の保湿剤を使うようにしてください。
塗る場所は外陰部と呼ばれるところです。女性の場合は陰核(クリトリス)や尿道のあたりから、腟前庭部(小陰唇の内側の腟入口部で人差し指の第2関節くらいまで)、小陰唇、大陰唇の順で塗ります。肛門周りまで保湿剤を塗るのも良いでしょう。
これ以外のケアとしては、腟のマッサージも効果的です。当クリニックでも動画を上げておりますので、参考にしてください。
骨盤底筋群のトレーニングは10代、保湿は30代から始めて習慣化
現在、骨盤底筋トレーニングに関しては、女性の場合は生理の始まりと同時に始めることが推奨されています。子宮の発達に伴ってトレーニングを開始するということですが、実際に出産前からトレーニングをしている人の方が、出産時のトラブルが少ないというデータが出ています。
一方、保湿に関しては、女性ホルモンがたくさん出ているうちはフェムゾーンが潤っているので、生殖年齢の女性には必ずしも必要ではありません。本格的に保湿が必要になるのは50代からです。ただこうしたケアは、習慣化が重要です。50代になって急に始めるのではなく、30歳を超えてお肌や外陰部の乾燥が気になりだした頃から始めると良いでしょう。
セルフケアで80%の治療満足度があれば十分
加齢とともに増えるフェムゾーンの疾患は、QOL疾患と言って生死にかかわるものではありません。また老化がかかわるものなので、治療満足度も100%にはなりません。まずは自分で、市販薬も含めたさまざまな方法を試し、80%ぐらいの満足度が得られれば、病院を受診する必要はありません。ただ最近は長期の使用を避けた方が良い市販薬もありますので、長く市販薬を使い続けているようであれば、フェムゾーンの健診もかねて病院を受診してみることをお勧めします。
フェムゾーン周辺のトラブル、例えば痔に関しても最近は良い市販薬が出ていますので、それで80%の満足度が得られていれば、セルフケアで問題ないでしょう。ただ、フェムゾーンや周辺のケアをいくら頑張っても満足度が50%を下回るようであれば、治療した方が早く良くなるケースがありますので、専門医の受診をお勧めします。
適切な食事と運動、そして自分が楽しめるイベントを
女性ホルモンの量は食事とも関係しています。まずは食事の際にタンパク質とミネラルをしっかり摂ることを心がけましょう。あとは甘いものを過剰に摂らない、お酒も控えるといった習慣も大切です。
また運動も重要です。1日4000~5000歩は歩くことと、週に2~3回の筋トレを習慣づけて欲しいですね。筋トレは、スクワットや腹筋など、誰でもできる運動を20~30回やる程度でかまいません。
それに加え、月に数回は好きなことでお出かけする機会を設けてください。「旅行」でも「推し活」でも、自分が楽しいと思えるイベントを持つことが、ホルモンにとっても有効です。
ただし、こうした健康的な生活を送っていても、健康の満足度が下がったと思ったら、気軽に薬局やクリニックに相談しましょう。年に1、2回のトラブルなら薬局、毎月薬に頼るようであればクリニックに相談するのが良いでしょう。
フェムケアにおいても、まずは自分の体を自分で守る、セルフヘルプの意識が大切です。年齢だからと諦めるのではなく、積極的に情報を集め、年齢に見合った健康の満足度を認識することが、QOLの向上につながります。