社会医療法人社団 高野会 大腸肛門病センター高野病院
理事長、大腸肛門機能科部長
高野 正太 先生

プロフィール
社会医療法人社団 高野会
大腸肛門病センター高野病院 理事長、大腸肛門機能科部長
2005年に特定医療法人社団高野会 高野病院勤務
2014年に社会医療法人社団高野会 大腸肛門病センター高野病院 肛門科部長、大腸肛門機能診療センター長
日本大腸肛門病学会 評議員・指導医・専門医
日本外科学会会員
難病指定医
社会医療法人社団 高野会 大腸肛門病センター高野病院
〒862-0971
熊本市中央区大江3丁目2番55号
便を出したくなったら出す。当たりまえだけど、大切なこと
便秘予防の基本は、規則正しい生活習慣です。なかでもバランスの良い食生活は特に重要で、野菜はついつい不足しがちなので、意識して摂るよう心がけましょう。また、便意を感じたときに我慢せずきちんと排便することも大切です。せっかく腸が出したがっているのにそのタイミングで出さないと、便が腸内に戻ってしまって溜め込むことになり、硬くなって出づらくなります。便を溜め込んでいる状態が続くと直腸がその状態に慣れてしまい、便意を感じにくくなり、さらなる悪循環に陥るケースがあります。なお、最も排便しやすいのは朝です。特に朝食後は、胃に食べ物が入ったことで腸にシグナルが送られて排便が促される「胃結腸反射」が起こり、腸が夜中に働いて溜まった便を出すのに最適なタイミングとなります。そして、自分が出した便はきちんとチェックするようにしてください。うさぎの糞のようなコロコロと小さく丸い便よりも、いわゆる細長いバナナ形の便のほうが望ましいです。でもコロコロ便だからといってすぐ病院へ行く必要はありません。水分を摂る量を増やすなど、生活習慣を見直すきっかけにしましょう。
市販の便秘薬を選ぶ際には、非刺激性のものを
便秘薬には大きく分けて「刺激性」と「非刺激性」がありますが、もし市販薬で様子をみる場合には、基本的には非刺激性のものを選ぶようにしてください。
刺激性の薬はどうしても排便できないなどの緊急時だけに留めておきましょう。実際に、出なかった便が刺激性の薬で出た際の一時的な“爽快感”が忘れられず、常用するうちにどんどん服用量が増え、いつのまにか一日に何百錠も服用しても出ない状態になって病院へ駆け込んで来る、という患者さんもいるほどです。
非刺激性の薬としては、マグネシウム製剤が一般的です。すでにマグネシウム製剤を試されている方には、海外での評価も高いポリエチレングリコール製剤などの新薬や、西洋薬と漢方薬を組み合わせて処方することもあります。いずれの場合も、患者さんの年齢、症状、性別などを見極めながら使い分けています。
善玉菌と、その“えさ”となる成分を一緒に摂る
「シンバイオティクス」が効果的
便秘薬に加えて、整腸作用のあるサプリメントもおすすめしています。腸内の善玉菌を増やすことは腸内環境、ひいては便秘の改善につながります。
「シンバイオティクス」という言葉をご存知でしょうか。これは、ビフィズス菌や乳酸菌、納豆菌などの善玉菌と、これらの善玉菌の栄養源となり、その増殖・活性化を促すオリゴ糖や食物繊維などの成分を一緒に摂ることを指します。まだ認知は低いものの、腸内環境を効果的に改善させる方法として注目されています。
たとえばヨーグルトや納豆、キムチ、味噌などの善玉菌が含まれている食材と、きのこ類や海藻類、果物類など善玉菌の“えさ”となるオリゴ糖や食物繊維が豊富な食材をあわせて摂ることがシンバイオティクスとなります。通常の食材や食事でカバーしきれない場合には、それを補う意味でサプリメントを合わせると良いでしょう。
また最近は、腸内細菌を調べるサービスもあるので、まずは自分の腸内環境がどのような状態なのか、把握しておくのも良いと思います。
便秘と痔は切っても切れない関係
便秘の患者さんでは、痔を併発されているケースも多く見られます。たとえばいぼ痔の方は、便が直腸まで下りてきているのに、スムーズな排便ができない「便排出困難型」の便秘を併発していることが多く、その場合、いぼ痔だけを先に手術しても、術後の傷を硬い便が刺激して治りにくくなることもあるため、先に便秘の治療を行います。硬くなった便をやわらかくする下剤を処方して、排便時の痛みを和らげてから、痔の治療を行います。
また、痔になったことで、便を出すと痛いからと便を我慢するようになり、便秘になってしまうケースも少なくありません。便秘が痔の原因になることが多いですが、逆に痔が便秘の原因になったり悪化させたりすることもあるということです。個別の症状にもよりますが、便秘と痔の両方で悩まれている患者さんには、先に便秘の治療を行うことが多いです。
洋式トイレの影響で、子どもの便秘が増えている
ひとつ、最近の傾向として気になることがあります。「小児便秘」、つまり子どもの便秘が増えていることです。その最大の原因と考えられるのが洋式トイレで、大人なら便座に座っても足が床に届きますが、子どもだとブラブラと浮いてしまうため排便時に踏ん張ることができず、うまく力めないのです。また、そもそもしゃがむことができない子どもが増えていることも一因です。
そのような背景もあり、最近は小学校で排便の仕組みを教える活動もしています。その際、子どもでもわかりやすいよう、「肛門」を「校門」に例えて説明しました。「一日の授業が終わって帰ろうとしたとき、校門が閉まっていたら出られないでしょう。うんこも同じです。消化が終わって出ようとしているときは、肛門をゆるめてあげないと、うんこが外に出られない。しっかり力を入れて、骨盤の筋肉を開いて、うんこを出してあげましょう」と。こういった知識を持つことが、子どもたちの便秘解消や将来の便秘予防につながるとうれしいです。
生活習慣から変える意識が大切
便秘で相談に来られる患者さんに、普段どのような生活を送っているかを伺うと、「便秘になるべくしてなっているな」という方も多いです。生活習慣を見直す意識がないまま、とにかく薬を出してほしい、といった方もいますが、そのような方は結局また同じ症状を繰り返しやすいです。便秘の解消には、やはり食事、運動など日常生活をきちんとすることが基本。薬だけで何とかしようとするのではなく、生活習慣から変える意識が大切です。
ただし、極端に神経質になりすぎてもいけません。「野菜をとにかくたくさん摂らなきゃ!」とか、「便は毎日出ないとだめ!」といった過剰なストイックさは不要です。便秘には「週に何回以上便が出なければならない」といった決まった回数の定義はなく、一人ひとりが自分の感覚としてお腹がすっきりしていれば、回数やペースなどは気にしなくて大丈夫です。